オタク、推しの為に小特を取る

全てはここから始まった。

推しのイベント当たったのに顔写真付き身分証明証がない!!!!どーーーーーしても大至急顔写真付き身分証明証が要る!!!!!!!!!!!


非常に状況としてはまずい。正直に自分の想定不足が招いた結果だ。ひどい自己嫌悪に陥る。反省しかない。

しかしながら、反省はするとしても落ち込んでいる暇なども正直ない。何が何でもやるしかないのである。

というわけでネットで調べ倒して出た結論は原付免許の取得。
こうして私の3日に渡る戦いは幕を開けるのである。
決意したのは夕暮れ、そのまま本屋に駆け込みテキストを購入しひたすら勉強を始める。この時点でもじゅうぶん「自分何やってるんだろう感」が溢れて止まらない。それでも合間に推しの写真を眺めつつ己を律して取り組むオタク。


そしてオタクは受験予定日前日の夜にはたと気づく。

勉強に必死すぎて住民票取るの忘れた。

己への怒りが止まらない。脳みそホントに動いてんのかお前!!!???!?!?
ただでさえ状況は地獄なのに地獄の上塗り。絶望感に押し潰されてこのままぺしゃんと消えそうだむしろ消えてしまえ!

消えてしまいたい状況でも推しは諦められない。
原付の試験は午前しかない。市役所開庁ダッシュをしたとてギリギリ間に合わない。何か!何か方法は無いのか!!!

再び鬼のようにネットの情報をさらった結果、午後から試験を受け夕方に免許証を手に入れる方法がひとつだけ弾き出された。
そうだ、もう小型特殊自動車免許を取るしかない。
私は小特を取る!!!!!!!!!!!!!!

ところで小型特殊自動車って何?


そんなわけでタイトル。【 オタク、推しの為に小特を取る】です。
私は小特を取る事にしました。


小特免許とはコンバインを公道で乗り回せる免許。試験自体は原付とほぼほぼ変わらないという。しかしやはり乗り込む前に敵を知るということは重要である。そんなわけで受験前日の夜、小特について調べたおした。
が、正直試験内容については薄らとしか出てこない。それより何より「小型特殊 受験」で出てくるのは、先達の小特受験者たちの孤独な戦いの記録であった。

小特受験者はVIP扱い(という名の晒し刑に)されるとか、いやいや実際は全然そんなことないよ普通でむしろツマランわいとかなんだとか。言うても農業県やし小特そこそこおるんちゃうん?頼むわ目立ちたくないんやてことで後者を想定して行ったわけだが、結論から言うと、

完全に晒し者

まず最初の窓口で「……小特でいいの?」と念を押され、視力検査で「小特……」と呟かれ、確認では「はい小特ね…………ん?待ってね、あれ……??○○さーん!!○○さーん!!!!小特って今日まだ試験あんのかい!!!!!???(クソ大声)」

思わずマスクを引き上げてしまった。

完全にその場で「小特を受験する珍妙な女」というステータスが確定。いやマジ周囲の目。

だが最後のおっちゃんにはめっちゃ応援された。「ごめんね小特午後あるね!試験頑張ってね!!!」「ハヒ」
ありがとうおっちゃん、アタシ頑張るわ。
いやプレッシャーハンパねぇーーーーーーwwwwww

筆記の前の待合での案内でも受難は続く。
「(まあ居ねえだろうが一応聞いとくけど)小型特殊の方ぁ?」
「ホァイ」
「ォアッ 小特おるね、ちょっと待っとってね」

これ落ちたらアイツ落ちたんやな……ってみんななるやつやん。え、いややん……。

改めて身の引き締まる思いで筆記に臨んだ。正直自信なくもないがあると言い切りもし難いと言った感じ。
筆記終了後はめっちゃ美人でクソほどスタイルのいい警察官さんに案内される。もう落ちてたとしてもこんな美人の警察官さん拝めただけで来た意味あったと思おう、そうだわ。「あと最後にひとつなんですけど」「アッハイ」

「なんで小特取ろうと思ったんですか?」

アッハッハですよね〜(笑)
どうしても顔写真付き身分証明書が欲しくて云々。
「なるほど〜!たまーにこう、お若い方で小特来る方はそういう事情もあるんですねぇ!なんかコンバイン乗るのかな〜とか色々想像してたんですけど」
「そうですね〜でもせっかくだからフォークリフトの講習とか受けようかなって気もしてきました」

というなんとも言えない返しをして美人を困惑させながらも、いよいよ天国行きの乗車券を手にすべく発行所へ。

「どうした?何しに来たん?」
「アッあの……小特受かって…………………………」
「あ〜〜〜〜小特の子ね!!はいはいごめんね」
「は〜〜いwww」

最後までコレである。清々しい。

そろそろ慣れてきた。むしろ若干この扱いに愉悦すら覚え始める。私はもう立派な小特受験者であった。
完全にその日の免許証発行ラストで仕事増やしてもうてすんません感は否めなかったものの、私はついに顔写真付き身分証明証を手に入れたのである!
オタクの3日間の戦いはこうして終わった。


とまあ動機は不純であるものの、普通免許を持たず、道交法などを学ぶ機会を完全に逃してきた成人にとっては己の無知さを知る良い学びになりました。むしろ教育の過程で普通に教えて欲しかったんですけど!みたいな感じです。交通安全教室とかはやった覚えありますけど中高あたりでもっとガッツリやればいいのに。(口で言うほど現場は簡単じゃねぇんだよ!ということは理解していますが)

とにもかくにも、しっかりと今回学んだ交通ルールを守って健やかに、元気に推しを推していくオタクライフを送りたいと思います。